異脳流出

「異脳」流出―独創性を殺す日本というシステム
著: 岸 宣仁, 出版社: ダイヤモンド社, ISBN: 4478890153, (2002/01)
日本の研究界のしがらみを浮きぼりにした本だと思う。世界をリードする日本人研究者が研究の場として日本ではなく外国を選ぶという現状。自分も研究を仕事としているので感慨深い本だった。(著者はインタビュアーが言及していないのに裏をよんで、必要以上に日本を批判している感はあったけれど。)私はまだまだ大学院を卒業したばかりで研究者の卵だし、外国への留学経験もないし、自分の研究データをまとめることだけに精一杯で、日本のシステムについて語れることはないけれど、最近感じていことをひとつ。

私は植物生態学を専攻している。生態学は野外のデータを地道に集めることから始まる。地面にはいつくばって実生をさがしたり、何千という個体にマーキングしたり、数万という数の種子を数えたり。研究者じゃなくても出来る単純作業の繰り返しである。また、野外調査に限らず実験室で行う遺伝解析なども、使う機械が特殊になるだけで同じことがいえる。効率的にデータをとること、業績をかせぐ(論文を書く時間を確保する)ことを考えると、バイトにやってもらうことも重要である。
外国では、院生のときからバイトに仕事をやってもらうことも多いようだ。自分で調査したことがないデータで論文を書く人も多いと思う。研究者の義務は研究成果を世に還元することだから、それが悪いとは思わない。
でも、私は現地調査はできるかぎり自分でやりたい。私は現地でデータ取りをしている間に多くのことを学んだ。それ中には、研究に役立たないこともたくさんあるけれど。実際に自分の対象とする場所で汗にまみれることで見えてくることがたくさんあった。
日本では院生時代からバイトにデータを取ってもらうことはまれだと思う(少なくとも生態学の分野では)。それは論文数をかせぐには不利だが、自然からのメッセージを読み解く生態学という分野では非常に大切なシステムじゃないかと思う。